20070105214715

 人生は予想が付かないことが多い。また、どんな危険が待ち受けているかも分からない。しかしまた危険について考えすぎては、逆に身動きが取れなくなり、本末転倒になるともいえる。
 別に人生は危険を避けたりする為にあるわけではなく、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」とも言うように目標の実現のためにはある程度のリスクを覚悟しなければならないこともある。
 細かいことを言えば、日本語で一口に「危険」といっても、リスクとクライシス、ディンジャー、ハザードなどに分かれるそうだ。例えば「リスク(危機)」とはアラビア語で「明日の糧」で、「クライシス(危局、難局)」はギリシャ語で「分離」、すなわち生と死の分岐点を意味するとされる。そしてハザードはアラビア語で「さいころ」だそうで、ある状況が起これば危害を起こしうる潜在的な危険性示す。
 よく「人生の目標」とか、「将来の夢」などと言うが、それは社会がある程度安定しており、変化が緩やかであればこそ立てられるものである。真の強者であれば乱世を好むかもしれないが、多くの平凡な人間にとっては、まだしも安定した今の日本の様なところが住みやすかろう。
 したがって、明治維新の頃は殆どの日本人にとっては「クライシス」であり、西欧列強にとっては植民地拡大の単なる「リスク」に過ぎなかったわけである。しかしある一定の識者たちにとっては、黒船よりもはるか以前から西欧列強は「ハザード」として認識されていたに違いない。
 常識的に考えると、天然記念物のような今の日本人が、当時の弱肉強食のクライシス時代を生き抜いた父祖たちの百年戦争を単に悪いと決め付けることはできない。それは「命の大切さ」を謳いながら、日々殺生を重ねて生きている己を振り返れば分かることである。
 それはともかく、わが最愛の一難は本日突然のクライシスに遭ってしまった。
 普段は「早く死ね」とほざいているヤブーにSOSの電話を掛け、「気持ちが悪い。まじ、やばいかも」とか何とか言い出したのである。そういえば凡そ一年前のシーズン、わがクリニック最初のインフルエンザ患者は息子であった。
 本日2日目にして閑古鳥の声を聞いていた私は、「すわ鎌倉」とばかり、インフルエンザ検査キット、タミフル、点滴一式などを抱えて、交通事故にあうリスクを犯してまで別宅に急いだ。
 一難はファンヒーターの前で毛布に包まり息も絶え絶え喘いでいる。
 生体反応があるかどうか、すぐさま検査用の綿棒を鼻腔内に突っ込んだところ、反射的に仰け反ったから大丈夫だろう。
 反応過程を行いながらシーズン到来を祈ったが、残念ながら白であった。こうして高価なタミフルを用いて異常行動を起こされるハザードはしばし去った。
 しかしそれでも息子は威勢がない。まるで私自身の「ムスコ」のようである。しょうがなく私は「痛い!お前がクリニックで一番下手だ」と言われるリスクを犯しながらも、嫌がる一難に翼状針ぶっ刺した。
 かくして脱水症に陥る潜在的危険性を脱した彼は、今傍らのベットで静かな寝息を立てている。寝ている時の一難は本当に可愛いもんだ。
 しかしなぜ彼は感染性胃腸炎になったのであろう。
 そういえば一昨日長女が牡蠣のバター炒めを作っていたし、私が前日に鍋用に買ってきた牡蠣も二人でしゃぶしゃぶとしゃれ込んで食べていたな。あいつらはリスクを犯して味わっていたようであるが、バイオハザードの可能性は考えなかったのであろうか。
 毎年牡蠣に当たる友人を知っていた私は、牡蠣ごときに無駄なリスクを犯すようなまねはしない。何せ次の日は仕事初めであったからね。
 残念ながら閑古鳥が鳴く状況は続きそうであるが、息子にはいい体験になったであろう。しかし「愚者は経験にすら学ばない」とヤーさんもいっているので先のことは分からない。
 人の心配よりも、明日のわが身の心配をしたほうが良いかもしれない。
 はたしてこの文章は、私にとって「リスク」か「ハザード」かそれとも「クライシス」になるのであろうか。
 人生の達人を目指すヤブーは知っている。実にディンジャラスな行為であることを。
 私に明日があれば、また綴りたい。
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【2007/01/05 21:47】 | 雑感


じー
おっ、この腕はエルですね。
どうしました?

というわけで、今年もよろしくお願いします。



ヤブー(管理人)
>>じー様
明けましておめでとうございます。
エルではございません。「エルもどき」の腕です。
久しぶりに点滴をするので、一番細いところで練習しようと思ったのですが、ビビッタので武士の情けで太いところにしてやりました。
一難は子供の爺さんに似て内弁慶でチキンなのです。v-7
「一家に一人ヤブーが必要だろう」といってやりました。
明日は金属バットでヤーさんはLのところにいってるかもしれませんがv-12




じー
「L」の後継者の「N」の腕でしたかぁ。
ま、何事もなくよかったですね。




ヤブー(管理人)
>>じー様
継ぐほどのものは何も無いので好きにやれば良いと思います。
ただ、「何でもいいから、やり続けろ」とは言いました。
そのあと、「今のまま鳴かず飛ばず状態をやり続けられたらどうしよう」と少々不安になりましたがv-7

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 本日はヤブーにとっては元旦である筈なのに、何故か仕事が始まってしまった。
 診療の合間にクリニックに何通かの年賀状が届き、その中に私の親友みたいなものの一人のご両親から戴いたものが混じっていた。
 その中に「私たちには30年前の顔しか覚えていないのに、あなたも50才を過ぎたとは云々」とある。確かにたまたま自治医科大学に入学でき、たまたま学生寮で隣の部屋にいたK君の実家には、一年生の夏休みに北海道へ行った帰りに寄らしてもらい、何泊かお世話になった。
 長旅の帰りでもあり、当時長髪でもあった私は、随分とかなり不潔で胡散臭い奴に思われたかもしれない。それでも随分と歓待してくれ、「秋刀魚の刺身」なる物も初めてご馳走になった。今なら大層喜んだのに、あの時の私は塩焼きしか食べたことが無かったために、少し引いてしまったことを良く覚えている。
 ご両親が30年後のご自身を想像できなかったように、私も30年後の今の自分は想像できなかった。いや、想像はしていたかもしれないが、かくなる現状になっているとは実感できる由も無かった。
 例えば秋刀魚の刺身が結構好きになる、なんていうことはあの時は決して思わなかった。正直できればこのような生臭いものは、金輪際食べたくは無いと願っていた。
 また一つ年上で運悪く隣室になったK君が、当時の私を正体不明でどことなく危なげに見えたためか、何かと世話を焼いてくれ、理解しようと無駄な努力を払ってくれるようになる、なんていうことも会った瞬間には決して考えなかった。ただ単に、「ちょっと不細工で怖そうな奴」と言うのが関の山だろう。
 かくのごとく若さとは愚かで頭が固く、狭量で嫌なものだ。
 そしてヤブーのような老人が加齢臭を放つが如く、若者が青臭い悪臭を放つことを、最近遅まきながら分かってきた。
 これは誰かのように、「寿命の半分を超えると、若い気持ちにも老人の気持ちにもなれるから面白い」ともいえることかもしれない。
 しかしながら、分かるのは辛いことでもある。どうにもならない気分になる。それは、自分の子供たちを見ても、両親たちを見ても感じる。しばし暗澹たる思いに浸るしかない時もあるのだ。
 「後悔」とも、それよりも多少は肯定的なニュアンスを持った「反省」ともまた違う。まったくもって、どう動いたらよいか分からないのだ。
 子供らにたとえ話をしても、説教をしても、それは子供ら自身が実感しなければならないことである。あるいは決して実感することが無いことかもしれない。
 声高に怒鳴ったところで、つの付く年齢を超えた子供が動くのを観たことがない。私は人生の半ばを過ぎた大人として、子供らの心の琴線に触れる言葉を持っていない。
 また、意識の連続性をやがては失うであろう両親たちの人生の意味を、最後にどう組み立ててやればよいのか、ということもよく分からない。親たちの世代よりは学歴もあり、多少はたくさんの書物を読んだものではあるが、彼らに届く言葉も持つことはできないようだ。
 昔、アル中で死んだある伯父が酔っぱらって繰り返していたように「今に分かる時が来る。人生棺桶の蓋閉じるまでは分からない」ということが確かに分かってきた。
 しかし分かってどうにもならないのは、なお辛いことだ。そして確かに分かる頃には、棺桶に片足を突っ込んだ状態になり人生の終焉が近くなる。
 「隙間越しに、光陰が早く移りいくように、月日の流れは早いものだ」とは、知識としては随分前から知っていた。それが、成るほどそうであると実感する頃には、その自分の意識自体がぼやけ始めてくる。
 人の一生のこうした繰り返しは仕方の無いこと、と何度か高をくくってみるが、それで安心できたわけでもない。
 ただ言えることは、自分が生き延びるためにある意味「心を閉ざしつづけてきた」私が、もう無理をしないで本当のことを話してもいいのだ、という心境になってきているということだ。もちろん、治療家としての多少の経験が、人間関係においては「情報」それ自体の伝達よりも「情報」の伝え方の方が遥かに重要である、ということを忘れさせてはくれない。
 またいくら本当の事といっても、墓場まで持っていく話をぶちまけるなどという無作法は今の私ならもうしないだろう。ただ単に、自分がどうしたらよいか分からないという、あまり面白くもない話を繰り返すだけかもしれない。
 じっさい分からないであるから、それは仕方の無いことである。

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