
人生の取得目標の一つに繰り返し語れる一つの思い出というのがある。これにはできれば孫に自慢できるような物がふさわしい。しかし大抵の人にはそんな経験は稀である。そこで家族共通の思い出という奴がそれに代わることが多い。
家族は繰り返し同じ体験を共有することにより絆が深くなる。何も難しいことではない。共に喜び、共に苦しみ、共に悲しみ、黙っているときがふさわしい時には共に静かにしている。しかし今はただそれだけのことさえも難しい時代かもしれない。
私の場合およそ12年くらい前からだろうか、毎年12月の終わりごろ三百人劇場を訪れて「昴」と言う劇団の「クリスマス・キャロル」を家族一緒に観ることが年中行事の一つになった時期がある。この劇の脚本、演出は何度か変わり、当然のことながら演ずる俳優も入れ替わった。三度目の台本は劇中劇風のもので、当然のことながら子供たちにはわかり難く妻にも少し不評であった。その時チャールズ・ディケンズを演じたのは田中正彦氏という俳優であった。
やはり最初に見た時のシンプルな台本の印象が一番強く、劇中で歌われた、
さあ 市場に繰り出そう 帽子を忘れるなポケットに小銭さえ あればそれでいい
クリスマスの買い物は 年に一度の大仕事
儲けもなければ 損もない
どっちも気分のいいものさ
さあ 市場に繰り出そう 帽子を忘れるな
ポケットに小銭さえ あればそれでいい

という挿入歌をまだ小さかった子供らがとても気に入って、劇を観おわった後よく口ずさんでいた。きっと今でも歌えるだろう。
それから開業、長女の思春期、大学受験と実生活の苦労が重なるにつれ、演劇への関心は弱まり劇場から足が遠のく年月が続いた。長女は何時しか成人を過ぎ、次女も来春は大学受験という今年の秋になり、突然三百人劇場が来年で閉館になるというニュースが流れた。あるブログで少し知り合いになった劇団の理事長に伺ったところ、「クリスマス・キャロル」の上演は今年が最後だという。
学生時代から足を運び、妻とそして家族たちと何度も訪れた場所がなくなってしまう。そしてそこであの「キャロル」が観られるのは今年が最後になってしまう。私はそれぞれに忙しい家族に声をかけ、昨日皆で「三百人劇場」を訪れた。
小さなときには時々飽きていた子供たちが、前の席に並びじっと舞台を見つめる中演技が進み、やがてあの懐かしい
さあ 市場に繰り出そう 帽子を忘れるなポケットに小銭さえ あればそれでいい
という歌が流れ出す。そして家族は初めてみんなで始めてこの劇を見たあの時に戻り一つになった感覚に包まれる。時々涙が流れ出しそうになり瞼が熱くなる。
幕間の休憩時間に、たまたま観劇に来ていた田中正彦氏と少し話をする機会があり、長女と私は氏と一緒に写真を撮らしていただいた。氏は「お子さんがたにはあれはわかり難いと不評でした」と率直に語りながら、劇団雲の時代から入団し正に1974年に出来た「三百人劇場」と共に歩まれたであろう俳優人生を万感の思いで振り返るかのように建物を見つめていた。
程なく後半が始まり、やがて劇は感動のフィナレーに至り、私たち家族も他の観客も皆一体となり俳優たちに惜しみない拍手を続ける。ふと辺りを見回すと、目頭を押さえている人たちが何人もいる。それもやがて静まり、それぞれが劇場との別れを惜しみつつ個々の生活へと帰っていく。
劇中に散りばめられた「お金儲けにはならなくても、大切なことはたくさんあるんです」、「善人でさえ、善きことを成し遂げるには人生は短すぎる」、「悲しみも、喜びも、生きてることの あかし」などいくつかの片言節句もやがて忘れていくだろう。久しぶりで家族皆で観たこの劇は、ひょっとしたら私たち家族がばらばらに離れてそれぞれの人生を歩みだす始まりの印となるのかもしれない。
しかし子供らのそれぞれが、何時の時か昨日の日のことを微かにでも思い出してくれればそれでいいと思う。
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皆様こんばんは。今日からクリスマスですね。ヤブーの家は曹洞宗すなわち座禅の宗教ですが、サンタクロースはきっと何処かにいると信じています。
ただし家にはやってこないと、息子には話しております。(笑)
皆様が楽しいクリスマスのひと時を過ごされることを願っております。
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